大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)2938号 判決

原告 門真神社

右代表役員 川口藤造

右訴訟代理人弁護士 南政雄

原告 小山慶三郎

主文

原告が被告に賃貸中の別紙目録第一の二記載の土地一二六坪九合七勺の昭和三三年二月一日以降同三五年一二月末日まで、及び同三六年一月一一日現時における一ヶ月の賃料を金五九八円と認定する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、他の一を被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、賃貸土地の番地と坪数について、

原告が被告に対し、昭和一〇年以降現在に至るまで別紙目録第一の二記載の土地一二六坪九合七勺を、賃貸借期間を定めず、賃貸し、その坪当り一ヶ月の賃料が昭和三三年一月末日現在において金一円七四銭であることは当事者間に争いがない。

ところで、被告は、原告主張の別紙目録第一の一記載の土地三五坪二勺、同三記載の土地三九坪一合五勺は賃借していないと述べているので、検討してみるのに、証人高橋信一の証言及び原告代表者尋問の結果中には、右一及び三各記載の土地を被告に賃貸している旨の証言及び供述があるけれども、原告の全立証に徴しても、その坪数は固より賃貸部分を特定するに足る証拠がないので、この部分に関する原告の主張は採用したがく、従つて、原告のその部分に関する賃料増額を求める請求はこれを棄却する。

二、地代の認定について、

原告主張の増額賃料は被告の否認するところであるから、それが適正賃料と言えるかどうかについて検討してみることにする。

適正賃料の算出方法は種々あるようであるが、就中その土地の時価を投下資本として算出する場合が多いようである。しかし、時価そのものの鑑定基準が必ずしも合理的と言えないばかりでなく、時価は賃貸借当事者が何等の努力も払わない場合でも、インフレその他の経済事情の変動にもとずいて自然増加するから、その利益をどのような比率で当事者に配分すべきかも問題であるので、時価を賃料算出の基礎とする方法は採用しかねる。そこで、当裁判所は関係官庁において認定した固定資産税の標準価額(以下単に評価額と略称する)をもつて地主の適正な投下資本と推定し(地代増額請求事件の大部分が公租公課の増額と地価昂騰を原因とし、本件の請求原因もそのとおりであるが、地価の昂騰は特に賃貸借当事者のいずれかが別段の出捐、若くは、何等かの特別な努力を払うことに因りそれを昂騰せしめたような事情がない限り、当事者双方が折半してその利益に浴すべきであるから、増額請求の原因は専ら公租公課の増額に帰因することになる。そうすれば、公租公課の基準をなす評価額(これも約三年毎に改定増額の現状にある)をもつて地代算出の基礎と看るのが相当でないかと考えた)、これに年間利廻を乗じて得た積を適正な年間賃料と認め、利廻を現在の経済事情に鑑み年一割二分をもつて相当と考えた。猶ほ、適正賃料の算定に当り、立地条件については評価額を定める際既に考慮されているから新にこれを考慮する必要がなく、又固定資産税も元々地主の支払うべきもので賃借人に転嫁すべきものでないと思われるので考慮しないことにした。

右の方法に則つて、原告が被告に賃貸中の土地一二六坪九合七勺の昭和三三年乃至同三五年一二月末日まで、及び同三六年一月一日現時における一ヶ月の適正賃料を算定してみるのに、成立に争いのない甲第二号証の五乃至七と鑑定人荒木久一鑑定の結果中(第二回)昭和三六年度評価額の部分に照らすと、右土地を含む別紙目録第一の二記載の土地一反四畝一五歩、即ち四三五坪の昭和三三年度乃至同三六年度間における評価額がいずれも金二〇四、八〇〇円であることが認められるから、一坪当りの評価額は金四七一円(円位未満四捨五入、以下同じ)、従つて一二六坪九合七勺の評価額は金五九、八〇三円と算定され(これが右の一二六坪九合七勺に対する投下資本)、これに年間利廻一割二分を乗じて得た積、即ち金七、一七六円(これが右投下資本に対する年間利潤)が年間適正賃料、従つて、一ヶ月の適正賃料は金五九八円と認定される。原告の右土地に対する増額請求中右認定額を超過する金額はこれを棄却する。

三、認定賃料発効の時期について

原告主張の賃料増額請求の日時は被告の否認するところであるから、右認定の賃料が何日から起算されるべきかを検討してみるのに、原告代表者尋問の結果に徴すると、原告が昭和三二年末か同三三年始頃に氏子総代西村を被告方に派して被告に対し、原告主張のような事由で今後坪当り一ヶ月の賃料を金一六円に増額され度き旨を申入れたことが認められ、右認定に反する証拠がないから、その時に、前記認定の適正賃料額の範囲において適法な賃料増額の請求がなされたものと言うべきである。従つて、その後の同三三年二月一日以降の賃料増額を求める原告の請求は、右の適正賃料額の範囲において、正当であるから、前記認定の適正賃料額は同三三年二月一日より起算されることになる。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 牧野進)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例